
秋の帯のご紹介「本袋 漉綾 くし寒露」
「水底を水の流るる寒露かな」 これは2003年に亡くなられた俳人、草間時彦さんの句です。 「寒露の時期にサラサラと流れる澄み切った川を見ると川底まで見え、そこの流れまでわかってしまう。」 川の透き通る様子と秋の透明感を結び付けて詠まれたと推測されます。 寒露といえば、1年を24等分した暦である「二十四節気」の1つで、この頃から露が冷たく感じられ、寒冷の気が濃くなるとともに透明度を増し秋が深まってくる時期とされます。具体的な時期は、10月8日から10月22日までとなります。あれ?もう終わっているではないか、と思われたことでしょう。実はこの記事のエントリーは10月8日に完了しておりました。異常気象が世間を騒がせる昨今、今年の10月8日は東京で26.4℃、大阪ではなんと28.4℃まで気温があがり、真夏日一歩手前の日となりました。はたしてこの日に、寒露の記事をアップしてよいものかと悩まされ、暑さに屈した結果公開を断念いたしました。機屋は時候をとても大切に致しますので、実際の気候と暦とのギャップにいつも悩まされています。 さて今回ご紹介する帯は「本袋 漉綾

これでわかる!吉祥紋様解説第5回「雀」(帯写真あり)
雀ほど私たちにとって身近な野鳥はいないのではないでしょうか。稲を荒らす害鳥だという人もいれば、様々な虫を食べてくれる益鳥であるという人もいます。どちらに致しましても愛らしい姿は万人が認めるところです。 これからどんどん寒くなるにつれ、この時期特有の真ん丸になった雀たちを街でよく見かけます。防寒対策で羽と羽の間に空気を入れて暖かくしていると言われており、この状態の雀を「ふくら雀」といいますが、ふくら雀を利用した紋様が吉祥紋様と呼ばれるようになったのは「雀が食べてもあまる豊作」「丸々と太った膨らんだ雀」という所から吉祥となりました。 食べすぎてまん丸になったわけではないのですが、雀には不本意でしょうが古くからそう考えられていたようです。もう一つ「ふくら雀」とお聞きになると、帯の締め方をご想像されるかもしれません。振袖の時の古典的で代表的な締め方といえるのではないでしょうか。 今回の帯は2本となります。「竹雀」と「若冲秋塘群雀図」です。 まずは「竹雀」のご説明から。竹と雀は紋様でよく使われる組み合わせで、雀の翼を竹笹に見立てたものや、上で述べたふくら雀

綴れ名古屋帯 ウサギとカメ
今年の中秋の名月は明後日の10月4日です。実際に満月になるのは10月6日のようですが、綺麗な月を眺める事ができる日として昔から日本人の生活に根付いています。 松尾芭蕉は月の俳句を好み、多くの句を残したことで知られています。一番有名なのはやはり 「名月や 池をめぐりて 夜もすがら」 でしょうか。夜の空に浮かぶ月が池に映り、それに夢中になってしまい一晩中池の周りを歩いてしまったという意味です。松尾芭蕉の月に対する思い入れが伝わってきます。 この日は月見団子とススキをご用意される方も多いと思いますが、団子は15個の3段で一番下は9個、2段目が4個、一番上は2個が主流です。一番上の2個は正面から見て1個に見えるように配置します。昔は収穫への感謝の印として月に収穫物や稲穂をお供えしていましたが、江戸時代ぐらいより団子とススキに変化していったようです。(現代でもススキではなく稲穂をそのまま利用する地域もあるそうです) さて今回の帯は「綴れ名古屋帯 ウサギとカメ」です。 イソップ寓話では両者はそれほど仲良く描かれておらず、戒めの対象とされるウサギですがこの帯の