これでわかる!吉祥紋様解説第2回「四君子」(帯写真あり)
「吉祥紋様とは良い兆候、おめでたいしるしという意味を表した文様の総称です。」
吉祥紋様解説第2回は第1回「松竹梅」で少し触れました「四君子(しくんし)」です。
君子とは「君子危うきに近寄らず」でも有名な「礼儀」・「学識」・「徳」を具えた人の事を中国で言います。その君子の特性にぴったり当てはまる四季を代表する植物として「蘭、竹、菊、梅」が選択され書画に多く使われるようになりました。蘭は春の香りと気品をもち、竹は夏に勢いよく成長し、菊は晩秋の寒さの中鮮やかに咲き、梅は寒中を耐えて最初に咲く花として描かれ、この4つの草花の特徴のように振舞うことが君子への道とされ、紋様としては4つが揃わないと四君子紋様と呼ぶ事はできません。
と、ここまでが一般的な日本での「四君子」の解釈ではないでしょうか。
今回の連載にあたり、色々と調べてみますと「四君子」が実は中国発祥ではないという説もあるようです。1952年発行の日本美術辞典には「四君子、梅竹蘭菊の四種をいい何れも草木中の君子の如き高潔な趣をたたえたもの。元時代より人々はこれを尊び文人墨客の好む題材となって多く描かれている」とあるため、元王朝時代、大昔より中国では人気があったのだと理解できます。しかし、南画の専門家である山内長三によると元王朝時代から清王朝時代までの図録や遺存作品目録等を相当数見ても「1種のみ」「梅と竹」「蘭と竹」または菊以外の3種のどれかと別の草木との組み合わせは多くあっても
4種類をまとめて「四君子」と断ったものを見つける事はできなかったようです。日本では紀州三大南画家の一人、桑山玉洲が自著の「玉洲画趣」の中で、君子と4種の草花を文頭のように君子と4種の特性とを結びつけて論じています。山内氏はこれこそが今の日本での四君子の原点になっているのではないかと考え、中国ではどちらかというと精神性より如何に4種の植物を描くかという技法の方が圧倒的に表に出ていると論じております。山内氏の説ではありますが、大変興味深く説得力があると思わせるものでした。
さて、今回の帯は「本袋匠琳、万華四君子」です。
万華と名がつくようにそれぞれ4種の草花を万華鏡のようにイメージし、球体として配することによって、それぞれの球体が浮き出ているように見えます。織物でこのように見せるのは大変難しく、図案、織り方、配色、全てに高度な技術が求められます。4種の草花はそれぞれ赤、青、緑、紫ですが球体によって同じベース色でも微妙に色が異なっているため、大変手間がかかっております。見る人によっては球体を惑星、地の部分を宇宙ととらえ、帯の中で我々の住む太陽系のような1つの惑星系を形成しているという人もいます。このような想像をかきたてる秀逸な帯が盛夏以外、季節を問わずお召し頂けるので、重宝していただける一品と存じます。